ra*ka

勢いの無さに定評のある似非文芸ブログ。

ひのさか#46「せ」

Posted 茅野らほい / 2007.07.21 Saturday / 22:20

 つまるところ翌日である。部室にはうちとゆりちゃん以外誰もいない。それもそうだ、今日は休日なのだから。とは言え、運動部やら吹奏楽やら練習にきている生徒も多い。
 うちらはさっくり紛れ込んだように校舎に入っていけた。

「……つか、超ハズかった」
「それを言うな」
「だーってさぁ」
 うちは座りながらスカートの裾をつまんで、ぱたぱた扇ぐように振りながら言った。
 ゆりちゃんはゆりちゃんで、紙束の入ったファイルで首筋に風を送っている。
「ま、はずかちーことは置いといて。……いちお印刷してきたから最終チェックすんべ」
「お、プリンタ復活したんだ」
「んむ。原稿見るときディスプレイだとビミョいんだもん」
「言えてる言えてる。うちも欲しいなあ」
「働きたまえ若人よ」
「バレない程度にね」
 ゆりちゃんが机に原稿を広げていった。うちはその中の一枚をつまみあげて眺める。
「とりあえず、これで完成かな?」
「んだね、ギリ間に合ったから大丈夫でしょ」
「これ、pdfだったけど入稿ん時は形式どうなんの?」
「psdになるかな。早川さんとこ聞いたらインデザも行けるって言ってたし、ソフトは揃ってるみたい」
「んな高価なモン買えるかっての」
「何かね、前回のときに対応のお知らせもらったからさ、あいちゃんに持ってって相談したんだけど。何か検討してくれるっぽいよ」
「は、マジか」
「今回の売り上げ次第だってさ」
 冷静に考えて、部活動で収入が発生するのもおかしな話ではあるけれど。文化祭に関してのみ、文芸部と漫研は発行物を売っていいっすよ、と許可をもらっている。とは言っても黒字になることは皆無だ。印刷費以上にはならないように値段設定している。
 去年の売り上げは確か、一度生徒会に計上したものの、また変な圧力を使って臨時予算扱いで落としたらしい。漫研も同じシステムで印刷費と売り上げを回転させているらしいけれど、他の部活からすれば反則気味。しかしその数字が部の実績に直結しているのも事実だ。
「ところでゆりちゃん」
「何、改まって」
「ふたりでソファって意外とキツいんだね」
「……そりゃあ、そんなにじり寄られたらね」
「ギューさせれチューさせれウョーさせれ」
「最後意味分かんねえよ」
「うちも分かんない」
 ぺたりと吸い付いたように、うちの肩とゆりちゃんの肩はくっついたまま。
 気温のせいか、互いに汗がうっすらにじんで、溶け込むような感覚。
「狭いっ。もうちょっと詰めてよ」
「えー、もっとくっついてたい」
「こんな引っ付いてたらギューもできんでしょ」
「え、してくださるの?」
「ギューしてチューして、何だっけか、テヒョテヒョでもツクテーンでもしてあげる」
 言われるままに、うちは少しお尻をずらして横に身体を移した。ゆりちゃんは二回頷いて、空いた空間から手を伸ばす。指先はうちの肩と脇腹の間をさまよって、やがて背中に回る。
 うちは身体を傾けると、ソファの肘掛けにもたれかかった。近づいてくるゆりちゃんの顔をじっと見つめて、彼女の髪がうちの頬に触れた頃、ゆっくりと目を閉じる。
 開け放たれた窓から、遠い吹奏楽の音とセミの声が聞こえていた。

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