ra*ka

勢いの無さに定評のある似非文芸ブログ。

ひのさか2#35

Posted 茅野らほい / 2008.06.30 Monday / 23:39

 模試を土日にやりましょう、などと考案した方は非常に効率的な性格をしているのだと思う。そして大抵の人間は効率的な方法に気付かないか、敢えて避けるものなのだ、とも思う。
 つまるところ土日は休みたいとこの時期の三年生は例外なく考えていて、恐らく半数は勉強しなきゃいけないという恐怖観念に囚われつつも試験後に遊びに行くことを考えている。
 のだ、と思う。……思いたい。
「恵那ー恵那ー」
「どったの」
 休日の部室通りは閑散としていて、文芸部にいたのはうちとゆりちゃんの三年コンビだけだった。他の部室も、たぶん同じようなものだろう。
「わたしは今日遊びたい」
「同感ですねー」
 ほら見ろ、遊びたいって考えているのはうちだけじゃない。……と言っても、ゆりちゃんはここのところ毎日図書館が閉まるまで居座っていたし、放課後の補習もサボらないで出てたから、いい加減休みが欲しかったんだろうな。
「そもそも、よ。受験戦争なんてひどいネーミングの割に、何のロマンスもない訳じゃない?」
「そこにロマンス求めるのもどうなのさ」
「いやほら、やっぱ戦地から帰ってきて『よかった……本当に無事でよかった』とか言ってくれるひとでもいれば張り合いってものが」
「うちが言ってあげるよ。何回でも」
 そうこたえて、うちはふたつ持ち歩いていた鞄のうち、大きいほうをロッカー代わりの棚に放り込むと、彼女に向けてビシッと人差し指を立てて見せた。
「でもその前に、心も身体も軽やかにしてやんよー」
「……それ、画材?」
「んむ。持ち歩いてはいるけどさ、毎日やる訳じゃないしね。なんでこの週末はお休み。学科もやんなきゃだし」
「ふむ――、じゃわたしも」
 そう言ってゆりちゃんは、うちとは逆に棚からトートを取り出して、鞄の中身を詰め替えはじめた。
「全部持ち歩いてれば安心、って時代は過ぎたのです」
 言いながら、結局トートにしまい込んだのは速読と山川の問題集だけだった。
「あとは熱血にひらめきのあいちゃんノートがあるから十分でしょ。実際さー、問題集これしか使わなくなっちったもん」
 何だか盛大に空振りしそうなそのノートは、一学期にやっていたあいちゃんの補習をまとめたものだ。
 教えた本人いわく「これでダメだったらあたしが泣くわ」という心強いのか何なのかよく分からない代物だけど、ゆりちゃんはいたく気に入っているらしい。
 何しろ志望校、あいちゃんの母校だからなあ。
「さて、そんじゃどこに行こうか」
「本屋、だと参考書コーナーに引き寄せられそうだからやめとこ。何のために置いてくのか分からないわ」
「ゲーセンはあの微妙なカッポーがいそうだしなあ」
「じゃ、ちょっと遠出してみる?」
「ふむん、なら――」
 そこでうちは言葉を切る。言っていいものかどうか。ゆりちゃんが不審そうに首をかしげている。
「なら、何?」
「うんとね、その何だ、つまり一緒に買いに行きたいものがありましてですね」
「はっきり言いなよ、別にわたしでよけりゃ付き合うよ」
「――覚えてる? 去年のこと」
「……一周年ってもうちょい先じゃないっけ?」
「覚えてたなら、いーんだ。でもね、こういうときじゃないと」
「んー、分かった分かった」
 軽く手を振って、ゆりちゃんは立ち上がった。そしてうちの左手を軽く掴む。
「サイズ合わせ、しなきゃね」
 人差し指でうちの薬指をとんとんと叩いて、彼女は――笑った。
「あ、あとチェーンも買うよ、普段付けてられる用の!」
「うんうん、じゃそれはわたしからのプレゼントだ。原稿料も入ったことだし」
「やたっ、ゆりちゃん大好きー好き好き」
「そんじゃ行こうか? だらだらしてたら遅くなっちゃう」
「うんっ」
 大きく頷いて、うちは立ち上がった。左手はゆりちゃんの右手と繋がったまま。

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