ra*ka

勢いの無さに定評のある似非文芸ブログ。

謹賀新年

Posted 高宮かやの / 2012.01.04 Wednesday / 00:46

 元日の朝は早い。どのくらい早いかと言えば、まだ年が明けていないくらいだ。
 実際にはまだ十二月三十一日、大晦日なのだから。
「寒い、ねえ」
 隣でヒーターに手をかざしながら、柚季が眠たそうに言った。とはいえ、眠そうなのはいつものことだから、本当に眠いのかどうかいまいち分かりにくい。
「何かこう言うと申し訳ないんだけどさ、あたし夜中の初詣ってしたことないんだ。混むのかな?」
「うーん……、おっきいとこは、混むよね。うちはご近所さん、とかがメイン、かな。山向こうは最近、織櫛に行くひと多い、みたい。あ、あと――ちかちゃん、似合ってる」
「ありがと。柚季はさすがに着なれてる感じだね」
 ということで現在地は社務所である。で、あたしたちは揃って紅白の装束を着ていた。こういう恰好もなかなかする機会がないし、バイト代も出るし、寒さと眠気だけ乗り越えてしまえば、まあ何とかなるのだろう。
「あ、そろそろ時間。ちかちゃん、準備、へーき?」
 ほいほい、とあたしはひとつ頷いて立ち上がる。

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小説サイトらしく

Posted 高宮かやの / 2007.01.17 Wednesday / 22:32

■完全に忘れ去られていたのですが

昔のデータが見つからない、とかいう酷い理由で小説の無い小説サイトになっているこの現状を何とかしようと、モチベーションアップを図るためこちらのサイト(文字書きさんに捧ぐ46の台詞)からお題をいただいてきたので今日からしばらく書き続けることにします。100じゃないのは気合が。うん。

奥歯がたがたの法則

Posted 高宮かやの / 2007.01.16 Tuesday / 21:04

「電車、こないね」
 ホームの端、フェンスに手をかけて彼女は背伸びをしている。ラッシュの時間もとうに過ぎて、そこからまっすぐに伸びる線路沿いの道にも、背後に広がるホームにも、人の姿はほとんどない。わたしは背伸びを続ける彼女の背中をクラッチバッグの角でちょいちょい、と突付く。ぴんと張っていた背中を更に反らせて、彼女は後ろ足でわたしを蹴る動作。
「なー、やめー」
 がたがたん、たたんと地面が揺れて、続いて一本向こうの線路を電車が駆け抜けていく。この駅に止まるなんてことを考えてもいない電車は、ホームから離れた線路をたたかたん、と軽快に踏み越えていった。
「こないねえ」
 わたしはすぐ後ろにあった自動販売機のボタンに触れて、ICカードを押し付ける。さすがにもう物珍しい訳じゃないけれど、その動作がちょっと前までは考えられなかっただけに、新しいのに懐かしいような、そんな変な気分になるのだ。新しすぎるものは、それ以前を思い返してしまうだけに、触れた瞬間に懐かしさを感じてしまう。それだって、慣れてしまえば消えてなくなるものなのだろうけれど。
「電車、こないね」
 ホームの端、フェンスにもたれかかって彼女は携帯をいじっている。小さな駅の小さなホームは、電車と触れ合うその時を待っているのに。がたたたた、ん、たん、と音を響かせて過ぎ去っていく電車は、決してこの駅には止まらない。ホームと触れ合うことはない。ただ目の前を通り過ぎていく、それだけの存在。
「こないねえ」
 わたしは缶コーヒーのプルタブをぱちん、ぱちんと鳴らして、それから鞄に仕舞い込んだ。
 開けてなんて、やるもんか。
 このホームの端からは、隣駅のホームの端が見える。それだって、お互いに見えているのに決して重なることはないもの。彼女は髪留めを外して、わたしに向かって手招きをする。
「ちょっとさ、ここんとこ編み込み変じゃない?」
「ストレートのが似合うよ」
「えー、でもこれ20分もかかったんよ」
「でもわたしはストレートのが好き」
「じゃ伸ばすから後ろやってよ」
 口を尖らせつつも櫛を私に向けて、彼女が言う。透明な青の櫛は日差しを受けて光っていた。わたしは肩にかけていた鞄のストラップをかけ直して応えた。
「やだ」
 ホームの端、フェンスの向こうに見えるあのフェンスは、決して近づかない。ホームから離れた線路を走る電車は、決して触れ合わない。がたんたかたたん、たかかん、とリズミカルに視界から消えていく電車を眺めて、彼女は溜息混じりに呟いた。
「電車、こないね」
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