ra*ka

勢いの無さに定評のある似非文芸ブログ。

ひのさか2#11

Posted 高宮かやの / 2008.03.30 Sunday / 20:25

「あれ、ひとり?」
「うん」
 部室に入ってくるなり、戸波くんはいつものようにソファに一直線。鞄を放り投げて、普段だったらそのまま倒れ込むように寝てしまうはずだった。
 珍しく今日は起き上がったまま、制服のポケットから取り出した文庫を開いている。
「意外そうな顔」
「え、そんなこと、ないよ」
 戸波くんの言葉に、慌てて否定するわたし。……否定してる時点で何かがおかしいんだけれど、それは気付かなかったことにしよう。
「あ、戸波くん。こないだ行ってみたよ、あのお店」
「おー、ちょっと分かりにくかったんじゃね? あそこまで不親切な立地も珍しいから」
「……実は、ちょっと迷った、かな」
 わたしは別によかったけれど、千佳子が少し機嫌を悪くしていた。店に入ってからも、延々と「あたしを怒らせたことを後悔させてやる」とかぶーぶー言ってたし。まあそれもケーキを食べた瞬間、何処かに飛んでいってしまったが。とはいえ戸波くんには――言わないほうがよさそうだ。

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ひのさか2#10

Posted 高宮かやの / 2008.03.29 Saturday / 20:24

「柚季、そろそろ帰んない?」
 ブラウスの袖から覗く腕時計を見せるようにしながら、千佳子がわたしの肩をつつく。
「あ、うん。でもこれ、まだ残ってる、から」
 テーブルに並んでいる紙束は、来週の部会で使う書類だ。わたしと水崎さんで準備していたのだけれど、千佳子は特に手伝ってくれる訳でもなく、ただ携帯をいじったりお茶をのんだり。で、いい加減飽きたのか、そうやってわたしに声をかけたということだ。
 わたしは千佳子と水崎さんの顔を交互に見て、どうしようか迷っていたのだけれど、水崎さんがぴらぴらと手にしていた紙を振って言った。
「いーよいーよ、明日でも大丈夫。わたしもちょっとやったら帰るから」
「そんな、悪いです」
「ん、神谷っちがその内くるみたいだから、適当に手伝ってもらうわ」
 それに、と水崎さんは付け加える。
「川瀬さん、ずっと待っててくれたんだし」
「……はい」
 既に帰り支度を済ませている千佳子を見て、柔らかく笑っている水崎さん。わたしは周りを軽く片付けると、鞄を手に立ち上がった。

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ひのさか2#09

Posted 高宮かやの / 2008.03.28 Friday / 20:23

     第2話

 鳥居を潜って、境内の脇へ。社務所になっている離れを横目に、わたしは開きっぱなしになっている玄関に向かう。
 いくら神社だからってなあ……、せめて玄関くらい閉めとけばいいのに。
「ただいまー」
「おかえり。お邪魔してるよ」
「あれ、ヒナちゃん、来てたの? 久しぶりだー」
 居間から顔を出したのは、従姉妹の日生子ちゃんだった。従姉妹って言っても、十歳近く離れているのだけれど。ヒナちゃんはわたしを上から下まで眺め回して、ため息をついてみせた。
「制服似合ってるねぇ。ユズちゃんも高校生か」
「うん。どうにか、樋ノ坂入れたよ」
「ユズちゃんなら大丈夫でしょ。わたしだって入れてんだから」
「だってヒナちゃん、頭いいばい?」
「なことないって……ん、ユズちゃん、ちゃんとしてんのね」
 ヒナちゃんが言っているのがわたしの唇だって気付くまで、少し時間がかかった。リップの色なんて、分からないと思っていたのだけれど。不意に顔が熱くなっていくのが分かる。
「え、何でもないよ、ホント」
「ふーん? 彼氏でもできたんじゃないのー」
「ちが、そんなんじゃなくって、その……」
 ふふふ、と面白そうに笑って、ヒナちゃんは手招きをしてみせた。素直に側に寄ることにする。
 もう五月だっていうのに、まだ居間にはコタツが出されたままだ。さすがに電源は入っていないけれど、夜はこのくらいないとまだ肌寒い日もある。わたしは彼女の隣に入り込んで、とりあえず赤くなっているだろう頬が収まるのを待つしかなかった。

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